「真実」 【ショートショート:2011年5月作】


「なぁ?」
「なんだ?」
「お前の彼女って、あのM商社に勤めてるんだったよな?」
「ん?あぁ。最近は割と重要な仕事を任せられてるらしくてさ、しばらく会ってないけどな。」
「そうだよな……」
「それがどうかしたのか?」
「ん……あ、いや、そんなに会った事が無いから他人の空似かも知れないんだけどさ……」

「それでね、その子が発注ミスしたおかげで予定の10倍も受け入れなきゃいけなくなっちゃって……って聞いてる?」
「………………」
「もう!久しぶりに会ってるのに、さっきからなんか不機嫌だよ!?」
「……そうか?」
「そうだよ!どうしたの?何怒ってるの?」
「別に……怒ってるって訳じゃないさ。」
「じゃあ何?言ってよ。」
「……」
「……」
「池袋で見かけたって聞いたんだ。俺も最初は馬鹿らしいって笑ったんだけどな。
お前が風俗店で働いてるらしい、なんて事はさ。」
「!?」

「昨日な。昼過ぎに携帯で話したろ?お前は横浜でこれから会議って言ってたけどな。あの時、俺な。聞いてた店の前に居たんだよ、池袋の。
電話が終わった後、バッグに携帯をしまいながら店に入っていくお前を見てた。」
「……」
「あれは間違いなくお前だった……」
「……そう。見られてたのね……でも、怒ってないのね?」
「……」
「そう……結局あなたも……」
「理由は何だろう……」
「えっ?」
「お前が風俗店で働いているのはどうしてなんだろう。なぜお前は、その事を俺に黙っていたのだろう。なぜ俺は、その事に気付けなかったのだろう。
あれからずっと考えてたんだ……」
「……」
「俺は……俺はお前をちゃんと見ていたつもりになって、実際にはなにも見ちゃいなかった。
そんな俺が……何も見えてなかった俺が、なぜお前を責められると言うのか?」
「……」
「ごめんな……
こんなふがいない俺が、お前を愛してるなんて……言える資格は無いよな。」

「嬉しい……」
「……?」
「やっぱりあなたは違ったのね……」
「……何が……?」
「あなたと出会う前に、私が出会った人達と。」
「……」
「私があのお店に出入りしてるのを知って、それでも私を受け入れようとしてくれたのは、あなたが初めてなの……だから、嬉しくて。」
「……そう……なのか……」
「あのお店ね……」
「あぁ。」
「私の店なの。」
「………………はぁ?」
「だからね。私が経営者なの。あのお店の。」
「はあぁっ!?」
「2年前に祖父から経営権を譲り受けたの。私が表に出る事はないのだけど。
こんな……試す様な事をしてごめんなさい。私が経営者だって知ると、それだけで近寄ってくる人達が多かった。
だからずっと、私を私として見てくれる男性《ひと》を探していたの。」
「……」
「前に紹介してもらったお友達。そう、あの彼。偶然街で見かけた時に、私がお店に入るところを目撃してもらったの。きっとあなたの耳に入ると思ったから。」
「……凄いというか……何というか……狙ってできる事なのか?」
「幻滅しちゃったかしら?」
「……いや、正直ホッとした。嫉妬が無かった訳じゃなかったからさ。」
「ホント正直ね。でもありがとう。」


ショートショートを書いたのは、高校生の時以来になります。
会話文のみで書けるのもショートショートならではだと思います。
ただ今回は、オチも設定も何も決めずに書き始めたせいで構成もめちゃくちゃですし、推敲も甘くて申し訳ないのですが、ご容赦頂ければと思います。


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